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仙台高等裁判所秋田支部 昭和57年(う)12号 判決

裁判所書記官

高田隆一

本店所在地

秋田県能代市落合字上谷地四八番地の四

日の出運輸企業株式会社

右代表者代表取締役

嶋田康子

右の者に対する法人税法違反被告事件について、昭和五七年二月八日秋田地方裁判所が言い渡した判決に対し、弁護人から控訴の申立てがあったので、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原判決を破棄する。

被告人日の出運輸企業株式会社を罰金一、〇〇〇万円に処する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人加賀谷殷作成の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は検察官瓜生貞雄作成の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。

所論は、量刑不当の主張である。そこで記録を調査し、当審における事実取調べの結果を合わせ検討すると、本件は、被告人日の出運輸企業株式会社(以下、被告会社という。)の代表取締役であった嶋田康子が、被告会社の資金の蓄積をはかろうとして、昭和五三年から同五五年までの三か年度にわたり、雑収入を除外するなどして所得を秘匿したうえ、昭和五三年度は一、二六八万五、九〇〇円、同五四年度は一、八一〇万九〇〇円、同五五年度は一、〇一六万六、三〇〇円、合計四、〇九五万三、一〇〇円の法人税をほ脱したという事案である。この罪質・態様、とくにほ脱税額が高額に上っていること、そのほ脱率も約七〇パーセントという高率であること、本件の動機も個人的な遊興・飲食等に使用するためではなく、被告会社の将来の業績の拡大・発展をはかろうとしたものではあるが、脱税事犯としては格別に酌量すべきものとはいえないことなどを考え合わせると、被告会社の刑事責任は重大といわなければならない。

しかしながら、犯行発覚後は、被告会社代表者嶋田康子らは率直に事実を認め、反省の態度を示すとともに国税当局の調査等にも協力してきたこと、起訴された各年度のほ脱税額につき修正申告によりすべてこれを納付したほか、当審における事実取調べの結果によれば、原判決後本件にかかる加算税額・延滞税額合計八八〇万円につき担保を供したうえ分割により納付することとし、その計画にしたがって逐次納付しつつあり、いずれ全額を納付することが予想されること、また本件に関連し修正分の法人事業税額合計一、二三〇万三、七二〇円(そのほか昭和五二年度分二三一万六、四八〇円)、同法人県民税額合計二六三万五、八一〇円(そのほか昭和五二年度分四七万七、四〇〇円)、同法人市民税額合計六一六万四、五二〇円(そのほか昭和五二年度分一一一万六、五五〇円)を加算金、延滞金などとともにすべて納付したことがそれぞれ認められ、さらに被告会社の現在における営業状態等をも勘案すれば、被告会社を罰金一、二〇〇万円に処した原判決の量刑は、原審当時においては不当に重いとはいえないが、現時点においては重すぎてこれを破棄しなければ明らかに正義に反すると認められる。

よって、刑訴法三九七条二項により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により自判する。原判決が確定した事実に原判決のかかげる法条を適用し、各罪所定の罰金の合算額の範囲内で、被告会社を罰金一、〇〇〇万円に処することとし、主文のとおり判決する。

検察官 瓜生貞雄 出席

(裁判長裁判官 渡邊達夫 裁判官 武藤冬士己 裁判官 武田多喜子)

○昭和五七年(う)一二号

控訴趣意書

被告人 日の出運輸企業株式会社

右の者に対する法人税法違反被告事件の控訴の趣意は、左の通りである。

昭和五七年五月八日

右弁護人 加賀谷殷

仙台高等裁判所秋田支部 御中

一、被告会社は三年間にわたり約四、〇〇〇万円に及ぶほ脱行為が認定され、秋田地方裁判所において罰金一、二〇〇万円(求刑どおり)の言渡を受けたが、右刑は左に述べる理由により刑の量定が重きにすぎ破棄されるべきである。

二、先ず第一に本件ほ脱の動機についてであるが、被告会社代表者はかつて東京で事業をしていた頃失敗した経験があったが、右のような失敗を二度と繰り返さない為にも、会社が十分なる資金を持ち銀行からの信用を得る必要があると考えた。

しかし、我国の税制は利益が多ければ税率が高くなっていく極端な累進課税になっている為、会社経営の基盤を堅固なものにしたいと思って利益をあげればあげる程納税で苦しまなければならなくなるのである。

我国税制の不公平、不備を看過し、被告会社の違反のみを一方的に非難するのは片手落ちであると思われる。

三、次に被告会社は、右ほ脱行為に対し税務署から重加算税の納付を命ぜられ、脱税によって得られた利益をこえる金額を納付している。これは被告会社の犯した本件行為からみて当然であるけれども、しかし右重加算税の支払によって本件行為に対する大方の償いはしていると思われるのである。

又、新聞報道等により社会的制裁もされているのであるにもかかわらず、原判決は検察官の求刑である一、二〇〇万円の罰金に対し、全く量刑上の考慮することなくそのまま認定したことは量刑不当と言わざるを得ないのである。

四、以上の次第で本件犯行の動機、ほ脱金額、及び重加算脱支払等の社会的制裁を受けていることを本件量刑の決定にあたって考慮すべきであるにもかかわらず、これ等諸事情を十分に評価せず求刑通りの刑の量定をした原判決は量刑不当として破棄されるべきものと恩料される。

以上

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